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最高裁判所第三小法廷 平成4年(オ)1796号 判決 1996年3月19日

上告人

牛島昭三

右訴訟代理人弁護士

馬奈木昭雄

椛島敏雅

吉井秀広

池永満

小澤清實

梶原恒夫

小泉幸雄

岩田研二郎

岡田正樹

神山祐輔

佐藤誠一

高橋敬

谷萩陽一

増本一彦

横山慶一

板井優

田中利美

上条貞夫

名和田茂生

幸田雅弘

小林洋二

津田聰夫

鵜川隆明

宮澤洋夫

小島成一

四位直毅

高橋勲

寺村恒郎

松岡康毅

吉本隆久

浦田秀徳

西清次郎

松井繁明

小島肇

平田広志

内田省司

松岡肇

海川道郎

河内謙策

坂本修

島田浩孝

吉田健一

鷲見賢一郎

山田忠行

和田裕

加藤修

藤尾順司

諌山博

山本一行

井上道夫

高橋謙一

石田吉夫

大久保賢一

加藤美代

佐藤克昭

杉村茂

田中隆

前哲夫

横松昌典

被上告人

南九州税理士会

右代表者会長

末﨑將弘

右訴訟代理人弁護士

小川英長

池上健治

主文

一  原判決を破棄する。

二  上告人の請求中、被上告人の昭和五三年六月一六日の総会決議に基づく特別会費の納入義務を上告人が負わないことの確認を求める部分につき、被上告人の控訴を棄却する。

三  その余の部分につき、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

四  第二項の部分に関する控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人馬奈木昭雄、同板井優、同浦田秀徳、同加藤修、同椛島敏雅、同田中利美、同西清次郎、同藤尾順司、同吉井秀広の上告理由第一点、第四点、第五点、上告代理人上条貞夫、同松井繁明の上告理由、上告代理人諌山博の上告理由及び上告人の上告理由について

一  右各上告理由の中には、被上告人が政治資金規正法(以下「規正法」という。)上の政治団体へ金員を寄付することが被上告人の目的の範囲外の行為であり、そのために本件特別会費を徴収する旨の本件決議は無効であるから、これと異なり、右の寄付が被上告人の目的の範囲内であるとした上、本件特別会費の納入義務を肯認した原審の判断には、法令の解釈を誤った違法があるとの論旨が含まれる。以下、右論旨について検討する。

二  原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1  被上告人は、税理士法(昭和五五年法律第二六号による改正前のもの。以下単に「法」という。)四九条に基づき、熊本国税局の管轄する熊本県、大分県、宮崎県及び鹿児島県の税理士を構成員として設立された法人であり、日本税理士会連合会(以下「日税連」という。)の会員である(法四九条の一四第四項)。被上告人の会則には、被上告人の目的として法四九条二項と同趣旨の規定がある。

2  南九州税理士政治連盟(以下「南九税政」という。)は、昭和四四年一一月八日、税理士の社会的、経済的地位の向上を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度を確立するため必要な政治活動を行うことを目的として設立されたもので、被上告人に対応する規正法上の政治団体であり、日本税理士政治連盟の構成員である。

3  熊本県税理士政治連盟、大分県税理士政治連盟、宮崎県税理士政治連盟及び鹿児島県税理士政治連盟(以下、一括して「南九各県税政」という。)は、南九税政傘下の都道府県別の独立した税政連として、昭和五一年七、八月にそれぞれ設立されたもので、規正法上の政治団体である。

4  被上告人は、本件決議に先立ち、昭和五一年六月二三日、被上告人の第二〇回定期総会において、税理士法改正運動に要する特別資金とするため、全額を南九各県税政へ会員数を考慮して配付するものとして、会員から特別会費五〇〇〇円を徴収する旨の決議をした。被上告人は、右決議に基づいて徴収した特別会費四七〇万円のうち四四六万円を南九各県税政へ、五万円を南九税政へそれぞれ寄付した。

5  被上告人は、昭和五三年六月一六日、第二二回定期総会において、再度、税理士法改正運動に要する特別資金とするため、各会員から本件特別会費五〇〇〇円を徴収する、納期限は昭和五三年七月三一日とする、本件特別会費は特別会計をもって処理し、その使途は全額南九各県税政へ会員数を考慮して配付する、との内容の本件決議をした。

6  当時の被上告人の特別会計予算案では、本件特別会費を特別会計をもって処理し、特別会費収入を五〇〇〇円の九六九名分である四八四万五〇〇〇円とし、その全額を南九各県税政へ寄付することとされていた。

7  上告人は、昭和三七年一一月以来、被上告人の会員である税理士であるが、本件特別会費を納入しなかった。

8  被上告人の役員選任規則には、役員の選挙権及び被選挙権の欠格事由として「選挙の年の三月三一日現在において本部の会費を滞納している者」との規定がある。

9  被上告人は、右規定に基づき、本件特別会費の滞納を理由として、昭和五四年度、同五六年度、同五八年度、同六〇年度、同六二年度、平成元年度、同三年度の各役員選挙において、上告人を選挙人名簿に登載しないまま役員選挙を実施した。

三  上告人の本件請求は、南九各県税政へ被上告人が金員を寄付することはその目的の範囲外の行為であり、そのための本件特別会費を徴収する旨の本件決議は無効であるなどと主張して、被上告人との間で、上告人が本件特別会費の納入義務を負わないことの確認を求め、さらに、被上告人が本件特別会費の滞納を理由として前記のとおり各役員選挙において上告人の選挙権及び被選挙権を停止する措置を採ったのは不法行為であると主張し、被上告人に対し、これにより被った慰謝料等の一部として五〇〇万円と遅延損害金の支払を求めるものである。

四  原審は、前記二の事実関係の下において、次のとおり判断し、上告人の右各請求はいずれも理由がないと判断した。

1  法四九条の一二の規定や同趣旨の被上告人の会則のほか、被上告人の法人としての性格にかんがみると、被上告人が、税理士業務の改善進歩を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度の確立を目指し、法律の制定や改正に関し、関係団体や関係組織に働きかけるなどの活動をすることは、その目的の範囲内の行為であり、右の目的に沿った活動をする団体が被上告人とは別に存在する場合に、被上告人が右団体に右活動のための資金を寄付し、その活動を助成することは、なお被上告人の目的の範囲内の行為である。

2  南九各県税政は、規正法上の政治団体であるが、被上告人に許容された前記活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であり、その政治活動は、税理士の社会的、経済的地位の向上、民主的税理士制度及び租税制度の確立のために必要な活動に限定されていて、右以外の何らかの政治的主義、主張を掲げて活動するものではなく、また、特定の公職の候補者の支持等を本来の目的とする団体でもない。

3  本件決議は、南九各県税政を通じて特定政党又は特定政治家へ政治献金を行うことを目的としてされたものとは認められず、また、上告人に本件特別会費の拠出義務を肯認することがその思想及び信条の自由を侵害するもので許されないとするまでの事情はなく、結局、公序良俗に反して無効であるとは認められない。本件決議の結果、上告人に要請されるのは五〇〇〇円の拠出にとどまるもので、本件決議の後においても、上告人が税理士法改正に反対の立場を保持し、その立場に多くの賛同を得るように言論活動を行うことにつき何らかの制約を受けるような状況にもないから、上告人は、本件決議の結果、社会通念上是認することができないような不利益を被るものではない。

4  上告人は、本件特別会費を滞納していたものであるから、役員選任規則に基づいて選挙人名簿に上告人を登載しないで役員選挙を実施した被上告人の措置、手続過程にも違法はない。

五  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

1 税理士会が政党など規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても、法四九条二項で定められた税理士会の目的の範囲外の行為であり、右寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は無効であると解すべきである。すなわち、

(一)  民法上の法人は、法令の規定に従い定款又は寄付行為で定められた目的の範囲内において権利を有し、義務を負う(民法四三条)。この理は、会社についても基本的に妥当するが、会社における目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行する上に直接又は間接に必要な行為であればすべてこれに包含され(最高裁昭和二四年(オ)第六四号同二七年二月一五日第二小法廷判決・民集六巻二号七七頁、同二七年(オ)第一〇七五号同三〇年一一月二九日第三小法廷判決・民集九巻一二号一八八六頁参照)、さらには、会社が政党に政治資金を寄付することも、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためにされたものと認められる限りにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為とするに妨げないとされる(最高裁昭和四一年(オ)第四四四号同四五年六月二四日大法廷判決・民集二四巻六号六二五頁参照)。

(二)  しかしながら、税理士会は、会社とはその法的性格を異にする法人であって、その目的の範囲については会社と同一に論ずることはできない。

税理士は、国税局の管轄区域ごとに一つの税理士会を設立すべきことが義務付けられ(法四九条一項)、税理士会は法人とされる(同条三項)。また、全国の税理士会は、日税連を設立しなければならず、日税連は法人とされ、各税理士会は、当然に日税連の会員となる(法四九条の一四第一、第三、四項)。

税理士会の目的は、会則の定めをまたず、あらかじめ、法において直接具体的に定められている。すなわち、法四九条二項において、税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とするとされ(法四九条の二第二項では税理士会の目的は会則の必要的記載事項ともされていない。)、法四九条の一二第一項においては、税理士会は、税務行政その他国税若しくは地方税又は税理士に関する制度について、権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができるとされている。

また、税理士会は、総会の決議並びに役員の就任及び退任を大蔵大臣に報告しなければならず(法四九条の一一)、大蔵大臣は、税理士会の総会の決議又は役員の行為が法令又はその税理士会の会則に違反し、その他公益を害するときは、総会の決議についてはこれを取り消すべきことを命じ、役員についてはこれを解任すべきことを命ずることができ(法四九条の一八)、税理士会の適正な運営を確保するため必要があるときは、税理士会から報告を徴し、その行う業務について勧告し、又は当該職員をして税理士会の業務の状況若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる(法四九条の一九第一項)とされている。

さらに、税理士会は、税理士の入会が間接的に強制されるいわゆる強制加入団体であり、法に別段の定めがある場合を除く外、税理士であって、かつ、税理士会に入会している者でなければ税理士業務を行ってはならないとされている(法五二条)。

(三)  以上のとおり、税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的として、法が、あらかじめ、税理士にその設立を義務付け、その結果設立されたもので、その決議や役員の行為が法令や会則に反したりすることがないように、大蔵大臣の前記のような監督に服する法人である。また、税理士会は、強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない(なお、前記昭和五五年法律第二六号による改正により、税理士は税理士名簿への登録を受けた時に、当然、税理士事務所の所在地を含む区域に設立されている税理士会の会員になるとされ、税理士でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならないとされたが、前記の諸点に関する法の内容には基本的に変更がない。)。

税理士会は、以上のように、会社とはその法的性格を異にする法人であり、その目的の範囲についても、これを会社のような広範なものと解するならば、法の要請する公的な目的の達成を阻害して法の趣旨を没却する結果となることが明らかである。

(四)  そして、税理士会が前記のとおり強制加入の団体であり、その会員である税理士に実質的には脱退の自由が保障されていないことからすると、その目的の範囲を判断するに当たっては、会員の思想・信条の自由との関係で、次のような考慮が必要である。

税理士会は、法人として、法及び会則所定の方式による多数決原理により決定された団体の意思に基づいて活動し、その構成員である会員は、これに従い協力する義務を負い、その一つとして会則に従って税理士会の経済的基礎を成す会費を納入する義務を負う。しかし、法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々の思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている。したがって、税理士会が右の方式により決定した意思に基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がる。

特に、政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである。なぜなら、政党など規正法上の政治団体は、政治上の主義若しくは施策の推進、特定の公職の候補者の推薦等のため、金員の寄付を含む広範囲な政治活動をすることが当然に予定された政治団体であり(規正法三条等)、これらの団体に金員の寄付をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題だからでる。

法は、四九条の一二第一項の規定において、税理士会が、税務行政や税理士の制度等について権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができるとしているが、政党など規正法上の政治団体への金員の寄付を権限のある官公署に対する建議や答申と同視することはできない。

(五)  そうすると、前記のような公的な性格を有する税理士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないというべきであり(最高裁昭和四八年(オ)第四九九号同五〇年一一月二八日第三小法廷判決・民集二九巻一〇号一六九八頁参照)、税理士会がそのような活動をすることは、法の全く予定していないところである。税理士会が政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、法四九条二項所定の税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない。

2  以上の判断に照らして本件をみると、本件決議は、被上告人が規正法上の政治団体である南九各県税政へ金員を寄付するために、上告人を含む会員から特別会費として五〇〇〇円を徴収する旨の決議であり、被上告人の目的の範囲外の行為を目的とするものとして無効であると解するほかはない。

原審は、南九各県税政は税理士会に許容された活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であり、その活動が税理士会の目的に沿った活動の範囲に限定されていることを理由に、南九各県税政へ金員を寄付することも被上告人の目的の範囲内の行為であると判断しているが、規正法上の政治団体である以上、前判示のように広範囲な政治活動をすることが当然に予定されており、南九各県税政の活動の範囲が法所定の税理士会の目的に沿った活動の範囲に限られるものとはいえない。因みに、南九各県税政が、政治家の後援会等への政治資金、及び政治団体である南九税政への負担金等として相当額の金員を支出したことは原審も認定しているとおりである。

六  したがって、原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、その余の論旨について検討するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、以上判示したところによれば、上告人の本件請求のうち、上告人が本件特別会費の納入義務を負わないことの確認を求める請求は理由があり、これを認容した第一審判決は正当であるから、この部分に関する被上告人の控訴は棄却すべきである。また、上告人の損害賠償請求については更に審理を尽くさせる必要があるから、本件のうち右部分を原審に差し戻すこととする。

よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、四〇七条一項、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官園部逸夫 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信)

上告代理人馬奈木昭雄、同板井優、同浦田秀徳、同加藤修、同椛島敏雅、同田中利美、同西清次郎、同藤尾順司、同吉井秀広の上告理由

《目次》

第一 はじめに<省略>

第二 憲法第一九条・民法第九〇条に関する判断遺脱ないし法令違反<省略>

第三 民法第四三条に関する理由不備・理由齟齬など(上告理由第二点)<省略>

第四 憲法第一九条・民法第九〇条に関する理由不備・理由齟齬(上告理由第三点)<省略>

第五 民法第四三条に関する法令の解釈・適用の違背(上告理由第四点)

一 はじめに

二 被上告人の権利(献金)能力に関する原判決の解釈の誤り

三 「目的に添った活動をする団体」への資金援助許容論の誤り

四 「目的に添った活動をする団体」論と「存立の本来的目的とする団体」論の理由齟齬

五 南九各県税政のような実態を有する団体への政治献金の違法

第六 憲法第一九条・政治資金規正法・民法第九〇条に関する法令の解釈・適用の違背及び理由齟齬(上告理由第五点)

一 政治団体への寄付の強要は憲法第一九条・政治資金規正法・民法第九〇条違反

二 税理士法改正への賛否は国民としての思想・良心の問題であること

三 政治資金との関連性の明らかな特別会費は「五、〇〇〇円の拠出のみ」にとどまらない

四 特定候補の支援になれば軽微でもその強要は違憲・違法

五 多数決原理の解釈・適用の誤り

第七 採証法則・経験則の適用の違背(上告理由第六点)<省略>

第八 立証責任分配法則の適用の違背(上告理由第七点)<省略>

第九 被上告人の会則の解釈・適用の違背(上告理由第八点)<省略>

第一〇 まとめ<省略>

第五 民法第四三条に関する法令の解釈・適用の違背(上告理由第四点)

一 はじめに

原判決は、次のような非常にイビツな論理を展開して被上告人が政治団体である南九各県税政へ政治献金をすることは許されると判示した。

原判決は、①「控訴人が、税理士に関する制度について調査、研究を行い、税理士制度に関する税理士法の規定について改正の必要があるとする場合や、その改正が現実の課題となっている場合に、求める方向への法改正を権限のある官公署に建議するほか、税理士業務の改善、進歩を図り、納税者のための民主的税理士制度及び租税制度の確立を目指し、法の制定や改正に関し、関係団体や関係組織に働きかけるなどの活動をすることは、控訴人の目的の範囲内であり、法律上許容されているというべきである。」、②「したがって、右の目的に添った活動をする団体が控訴人とは別に存在する場合に、控訴人が右団体に右活動のための資金を寄付し、その活動を助成することは、なお控訴人の目的の範囲内であると考えられる。」として、③「南九各県税政は、控訴人に許容された前記活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であるということができる。したがって、控訴人が右団体の活動を助成するためにこれに対して寄付を行うことは、なお控訴人の目的の範囲内の行為であるというべきである。」としている。

原判決がこのようなイビツな論理を展開したのは、南九各県税政の政治活動の実態の判断をすれば、これに対する政治献金は許されないものと判断せざるを得ないため、その判断を回避したかったからと考えざるを得ない。

しかし、これは第一に被上告人が政治団体に政治献金する能力があることを認める解釈・適用である点で、第二に仮に政治団体への献金というだけでは許されないわけではないとしても、本件南九各県税政のように特定政党の後援会と同質の活動をしている実態を有する政治団体への政治献金をも認める解釈・適用である点で、原判決に影響を及ぼすことが明らかな民法第四三条の解釈・適用の誤りがあるものであって、原判決は破毀されるべきである。

二 被上告人の権利(献金)能力に関する原判決の解釈の誤り

1 「関係団体や関係組織に働きかけるなどの活動」一般が権利能力の範囲内にあるとする点の誤り

原判決は、前記一の①において、無限定に「関係団体や関係組織に働きかけるなどの活動をすることは、控訴人の目的の範囲内である」としているが、このような無限定な「関係団体や関係組織」への無限定な「活動」を被上告人に容認することは、贈収賄や選挙違反行為などの違法行為の教唆・幇助などという「関係団体や関係組織に働きかけるなどの活動」をすることも、被上告人の目的の範囲内となってしまい、その解釈の誤りは明らかである。

他方で、原判決は、特定政党、特定政治家へ政治献金する目的で「関係団体や関係組織に働きかけるなどの活動をすること」は、被上告人の権利能力の範囲外であることを当然の前提としているのであるから、なおさらである。

本論点の焦点は、被上告人に「関係団体や関係組織に働きかけるなどの活動」のうち、何が許されて、何が許されないのか、ということにあるのである。原判決は、被上告人に許される行為と許されない行為の限界をなんら明らかにしておらず、その解釈の誤りは明らかである。

2 政治団体への政治献金の禁止

当事者間に、被上告人が特定政党・特定政治家へ政治献金することが、その目的の範囲外の活動であることは争いがなく、原判決もこれを当然の前提としている。

したがって、「関係団体や関係組織に働きかけるなどの活動」のうち、何が、「特定政党・特定政治家への政治献金」と同質の活動が許されないことは当然である。

この点について、第一審判決は、正しく、政治団体への政治献金はそれだけで、政党・政治家への政治献金と同質の活動であり、被上告人の権利能力を逸脱すると考えていた。つまり、政治団体への政治献金は、被上告人の「関係団体や関係組織への働きかけなどの活動」であるが、政党・政治家への政治献金と同じく許されない活動なのである。

その理由として、第一審判決は三つの理由を挙げる(理由欄第四の三の4)。

第一は、政治資金規正法が政治団体への政治献金と政党・政治家への政治献金を区別していないことである。同法が両者を区別していないのは、次の第二の理由に基づくものである。

第二は、もし政治団体への政治献金ならば許されるとすれば、政治団体がいわゆるトンネルとなって、本来あってはならない、公益法人から政党や政治資金団体への政治献金が合法化され、もしくは特定政治家の後援会の政治活動を支える政治資金となって流れ、ひいては「民主政治の健全な発達」(規正法一条、二条一項参照)を希求する国民の願いに逆行することになるからである。

第三は、現に、本件においては、被上告人も自認するとおり、徴収された本件特別会費は、その一部が自民党県連支部連合会にパーティ券代として、あるいは自民党国会議員の後援会にパーティ券代、陣中見舞い、後援会費などの名目で支出されたことである。

原判決は、第一審が提起したこれらの問題点についてなんら答えていない。しかも、原判決は、南九各県税政がこのトンネルとして設立されたことをも認めているのである(理由欄第二の二の1)。

3 まとめ

以上のとおり、原判決の、民法第四三条の解釈の誤りは明らかでる。

三 「目的に添った活動をする団体」への資金援助許容論の誤り

1 はじめに

仮に被上告人の権利能力に関する原判決の一般論を承認するとしても、そこから直ちに、原判決のように②「目的に添った活動をする団体」、更には③「存立の本来的目的とする団体」であれば、すべてこれに対する資金援助を許容することは、民法第四三条の解釈・適用を誤るものである。

2 「目的に添った活動をする団体」論

原判決は前記一の②において、同①と同様「目的に添った活動をする団体」についても何らの限定をしていないものであり、同時に右①から②への論理展開について何らの説明もしていないものであるが、この点も民法第四三条の解釈・適用の誤りである。

この原判決の論理でいくならば、特定政党、特定政治家あるいはそれらの政治資金団体であっても、また極論すれば暴力団が中心となって設立した団体であっても、それらが「右の目的に添った活動をする団体」でありさえすれば、被上告人は「右活動のための資金を寄付し、その活動を助成する」ことができるという、結論にならざるを得ないものであって、非常識極まりないものとなってしまうからである。

よって、右「団体」に何らの限定も付していない原判決は、民法第四三条の解釈・適用を誤ったものである。

3 「存立の本来的目的とする団体」論

また原判決は前記一の③において、「南九各県税政は、控訴人に許容された前記活動を推進することを存立の本来的目的とする団体であるということができる。」として、被上告人の南九各県税政への政治献金は民法第四三条の許容するものであるとした。

原判決が右根拠とするところは「南九各県税政の各規約」も「『目的』として、『本連盟は税理士の社会的・経済的地位の向上を図り、納税者のための民主的税理士制度ならびに租税制度を確立するため必要な政治活動を行なうことを目的とする。』と定めている」というだけである。この論理でいくならば、特定政党、特定政治家あるいはそれらの政治資金団体であっても、また極論すれば暴力団が中心となって設立した団体であっても、そしてそれらが実際にどういった活動をしていても―公序良俗に反するようなあるいは刑事罰に触れるような活動をしていても、それらのその規約(定款・寄附行為)において右と同趣旨の「目的」が掲げられてさえいれば、その団体は原判決のいう「存立の本来的目的とする団体」だということにならざるを得ないものでる。即ち、被上告人は、右で述べたような団体であっても「団体の活動を助成するためにこれに対して寄付を行なう」ことができるということになるのであるが、この結論は社会的に到底容認されるものではないものであって、原判決は民法第四三条の解釈・適用を誤ったものである。

四 「目的に添った活動をする団体」論と「存立の本来的目的とする団体」論の間の理由齟齬

前記のとおり、原判決は、②で「右の目的に添った活動をする団体」への資金寄付は認められるという一般論を展開しながら、本件への当てはめに当たっては③で「南九各県税政は、控訴人に許容された活動を推進することを存立の本来的目的とする団体」だから同団体への資金寄付は許されると判示した。

しかし、ある団体が「目的に添った活動をする団体」かどうかは、その目的のみならず、その活動の実態(目的に対する手段)を検討・判断しなければならないはずである。

ところで原判決は、南九各県税政の目的のみを検討してことたれりとしているのであるから、そこには理由齟齬があるものというべきである。

五 南九各県税政のような実態を有する団体への政治献金の違法

仮に被上告人が政治団体というだけでこれに対する政治献金が許されないわけではないとしても、南九各県税政のような政党の後援会と同種の政治活動を行っている実態のある政治団体への政治献金はその能力の範囲外であるというべきである。

たとえ原判決のように税政連全体の政治活動の実態から南九各県税政の政治活動の実態を切り離して観察するとしても、同政治団体が設立された昭和五一年夏から本件決議が行われるまでの二年間のその実態は、原判決の認定した政治資金のトンネルとしての活動(理由欄第二の二の1)と第一審判決が認定した自民党の候補者の推薦・支援活動のみである。

これに税政連全体の政治活動の実態をあわせ考慮するならば、その政治活動の偏ぱ性は明らかである。

1 原判決の認定した南九各県税政の政治活動の実態

原判決は、その実態を考慮しなくても済むようなイビツな論理を定立しながら、他方で、南九各県税政について「政治活動は、税理士の社会的、経済的地位の向上、民主的税理士制度及び租税制度の確立のために必要な活動に限定されていて、右以外の何らかの政治的主義、主張を標ぼうして活動するものではなく、また、特定の公職の候補者の支持等を本来の目的とする団体でもない」と抽象的に評価してしまって、被上告人の南九各県税政への政治献金は民法第四三条の許容するものであるとしたものである。

南九各県税政について抽象的な評価を下すのであれば、その前提として同税政がどのような政治活動を行い、また政治活動以外にどのような活動を行っているのかに関する具体的な事実を摘示しなければならないものというべきである。

もっとも、原判決は、南九各県税政は、「日税政を構成する単位税政連である南九税政が、控訴人から受ける年間一五〇万円を超える寄附を、政治資金規正法が定める枠内で処理することができるようにその設立の直接的な動機があったものと認めることができる。」としてこれが政治献金のトンネルであることを認め(理由欄第二の二の1)、更には南九各県税政の昭和五三年から同五五年の自民党政治家・国会議員(当選後自民党に所属を含む)のみへの政治献金の実態について認定し、その全体の結論として「右の事実によれば、本件決議がされた昭和五三年から税理士法の改正があった昭和五五年までの三年間に、控訴人が南九各県税政に寄附した金員は、計七四六万七九二〇円で、南九各県税政の収入は、右寄付金を含めて二三五二万九八九五円であり、南九各県税政は、右収入から、政治家の後援会等にパーティ券、寄附、陣中見舞等として、また南九税政へ負担金等として、一〇三八万八〇〇〇円を支出し」といった、南九各県税政の政治活動の一部についてのみの(不当にも)、認定をしているものである(理由第二の二の2の(1)乃至(4))。

この原判決の認定した被上告人の実態だけであっても、①南九各県税政が被上告人が政治資金規正法先の規制を脱法するための団体―トンネルでしかないこと、②南九各県税政の実態がその一部ではあるが政治的に偏頗なものであって、自民党政治家・国会議員へのみ政治献金していたことが明らかなのである。

原判決でさえも認定した右のような事実がありながら、右実態さえも無視して原判決は被上告人が南九各県税政に政治献金できるとしているのであって、これは判決に影響を及ぼすことが明らかな民法第四三条の解釈・適用の誤りがあるものであって、破毀されるべきである。

2 第一審判決の認定した南九各県税政の実態

原判決が認定したトンネルとしての実態のほかに、第一審判決は南九各県税政の選挙活動の実態について次のような認定を行っていた。

「熊本県税政治連では、昭和五一年一一月一三日に衆議院議員候補者に関し、一区で松野頼三、野田毅、二区で坂田道太、園田直、福島譲二(以上いずれも自民党)を、翌五二年二月二八日に参議院議員候補者に関し、細川護煕、三善信二(以上いずれも自民党)をそれぞれ推薦することを決定した」(第一審判決理由欄第一の四の三)。なお、他の三県の税政連の活動も同旨である。

3 原判決の無視した南九各県税政の実態

以上のほか、考慮すべき実態は次のとおりである。

(一) 南九各県税政の実態は、その上部団体である日税政との絡みでいうならば、以下のような実態を備えているということができる(詳細は、第一審及び原審の上告人の準備書面参照)。従って、この実態を無視して被上告人が南九各県税政に政治献金できるとした原判決は民法第四三条の解釈・適用を誤ったものであって、それが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから破毀されるべきである。このような実態を有する南九各県税政に被上告人が政治献金できるとすれば、それは原判決でさえも禁止した特定政党・特定政治家への政治献金にほかならなくなってしまうものである。

(二) その実態は、第一に、原判決でさえも認定した右1のような事実(政治資金規正法の脱法のためのトンネルであること及び政治献金の実態よりして政治的に偏頗であること―この点は昭和四七年の南九税政による政治献金事件、昭和五一年の被上告人の特別会費問題、そしていわゆる税政連献金事件からして明らかである)があるということである。第二に、「税理士会側の日税連及びその下部諸組織と、税政連側の日税政及びその下部諸組織とは、形の上では二つの別々のものであるが、その実質においては表裏一体となり、日税政側が専ら政治活動を目的とした政治団体である点において相違があるにすぎないこと、換言すれば、税政連側は、税理士会側の政治実働部隊というにふさわしいものである」(第一審判決)こと―更にいうならば、「人格は違うが実質的には表裏一体の間柄であり、日税連という税理士法によって設立されている特殊法人が、その法的性格からできないことになっている政治活動の分野を担当するのが本連盟(日税政)の活動であること」(甲第二六九号証の二)、「選挙運動に関しては日税連は主体となって動くことができないことは当然であって、そのために日本税理士政治連盟が結成されており、表裏一体の関係において強力な運動を行なうこと」(甲第三五三号証)、及び「政治連盟の活動は常に連合会の意向と要請によって行動し、法律上連合会のなしえない選挙運動の実践とこれに関連する業務にしぼること」(甲第二五六号証)ということであって、その「存立の本来的目的」自体実態的には右のようなものでしかないということである。第三に、税政連の政治活動自体「税理士の職業柄にかんがみ、自由主義陣営の自民党議員を推薦することに異論は見られないが、社会主義を標榜する社会党その他革新政党については、いささか腑に落ちないとするむきもないではない。そこで、税理士制度の発展と向上を図るためには、自民党だけでなく、社会党その他の野党(共産党を除く。)をも推薦対象にしなければならないという事情を税理士会員に理解して頂きたい。」(甲第三五一号証)、「税政連は結成以来毎回の衆参両議員選挙の際に、選挙応援と政治献金を行なうとともに、日本国をよくしようとする政党や政治家のために後援会作りその他の後援活動を行っている。」(甲第四五二号証)、及び「職業団体の政治連盟はその職業の侵害に対する防衛や職域の拡大等を目的として政治活動を行ないますので、原則として『政府与党』と密着する傾向になるのはやむを得ないのではないかと思います。」(甲第三二一号証)といった非常に偏頗なものでしかないといことである。第四に、実際に推薦されてきた南九各県税政を含む税政連の推薦候補の顔ぶれを見てみるならば偏って税政連が政府・自民党の候補者のみを推薦しているということである(甲第二四一、二四七、二五〇の二、二五六、二六一乃至二六四及び二六七号証 南九各県税政は政府・自民党のみ)。第五に、「税政連は日常的に全国各地で国会議員を支援する『後援会』を組織している」(甲第三五〇号証の六)、南九税政の「推薦国会議員などの後援会の早期結成と拡大充実を測り、日常政治活動を行う。」(甲第四六〇号証六頁)ということで、税政連のみならず南九各県税政は日常的に特定政党・特定政治家に密接に結びついていたということである。

(三) その他、南九各県税政の活動の実態の詳細は前記第二の二「政治的に偏ぱな活動を行う税政連への献金が憲法第一九条・民法第九〇条に違背すること」で述べたとおりである。

4 結論

以上のとおり、南九各県税政の活動の実態は、特定政党・特定政治家の後援会のそれと同質のものであり、これに対する政治献金は被上告人の権利能力の範囲外であるというのが民法第四三条の正しい解釈・適用であるというべきである。

これと異なる原判決は民法四三条の解釈・適用を誤った違法があるといわざるをえないのである。

第六 憲法第一九条・政治資金規正法、民法第九〇条に関する法令の解釈・適用の違背および理由齟齬(上告理由第五点)

一 政治団体への寄付の強要は憲法第一九条・政治資金規正法・民法第九〇条違反

税理士会が政治的活動を行う政治団体である各県税政にその会員の意志に反する寄付を強要したことを事実認定しながら、本件決議を適法とした原判決は、理由齟齬の違法および憲法第一九条、政治資金規正法第二条一項、二二条一項、二二条の七、民法第九〇条の各解釈を誤ったもので判決に影響を及ぼす法令解釈の誤りがある。

1 原判決は各県税政の規約に「政治活動を行う」という文言があること、および政治資金規正法に言う政治団体であることを認めている。

また、「各県税政は日税政を構成する単位税政連である南九税政が控訴人(被上告人)から受ける年間一五〇万円を超える寄付を、政治資金規正法が定める枠内で処理することができるようにすることにその設立の直接的な動機があったものと認めることができる」と事実認定をしている。

2 さらに原判決は昭和五三年から五五年までの事実として次の事実を認定している。

(1) 熊本県税政において

昭和五四年八月二〇日税理士による野田毅後援会へ五万円を寄付した。

(2) 大分県税政においては

昭和五三年一一月一八日 政経文化パーティ実行委員会に会費として三万円

同五五年四月一八日 後藤正美を励ます会にパーティ券三〇万円

同年六月九日 羽田野忠文後援会に陣中見舞として一〇万円

同日 風雪近代政経研究会に陣中見舞として一〇万円

同年七月三一日 同研究会に後援会費として二〇万円

同年一二月五日 文ちゃんと語る船上パーティ本部にパーティ券として八万円をそれぞれ支出した。

(3) 宮崎県税政は

昭和五三年九月四日 大原一三後援会にパーティ券として二万円

昭和五四年八月二四日 同後援会にパーティ券として一五万円

同年九月一三日 江藤隆美後援会に陣中見舞として一〇万円

同日 堀之内久男後援会に一〇万円

同日 小山長規後援会に五万円

同日 宮崎如水会に一〇万円

昭和五五年四月八日江藤隆美のつどい事務局にパーティ券として一〇万円

同年五月一五日 自民党県連支部連合会にパーティ券として一〇万円を各支出した。

(4) 鹿児島県税政は

昭和五四年八月六日 山崎武三郎後援会費パーティ券として五〇万円

同年九月一四日 宮崎茂一後援会へ一〇〇万円

同日 山崎武三郎の会へ五〇万円

同日 第一政治研究会へ一〇〇万円

同日 永野祐也の会へ二〇万円

同日 新風政経研究会へ五〇万円

同月一五日 村山喜一後援会へ二〇万円

同日 小里貞利後援会へ五〇万円

同月一六日 保岡興治へ一五〇万円の各寄付をし、

同年一二月二五日 宮崎茂一後援会費パーティ券として九万円

同日 山崎武三郎後援会費パーティ券として三万円

昭和五五年六月九日 井上吉夫後援会に一〇万円

同日 内外政治経済研究会に三〇万円

同日 川原新次郎に一〇万円

同日 宮崎茂一後援会に三〇万円

同日 長野祐也の会へ一〇万円

同月一〇日 村山喜一後援会へ一〇万円

同日 小里貞利後援会へ一〇万円

同日 日本地域開発研究会へ三〇万円の各寄付をし

同年一二月三日 山崎武三郎後援会ヘパーティ券として一〇万円

を支出したものである。

3 そして右事実を認定したうえで次のとおり判示している。

「右の事実によれば、本件決議がされた昭和五三年から税理士法の改正があった昭和五五年までの三年間に、各県税政の収入は、右寄付金をふくめて二三五二万九八九五円であり、各県税政は、右収入から、政治家の後援会などにパーティ券、寄付、陣中見舞として、また、南九税政政経負担金等として一〇三八万八〇〇〇円を支出し、事務諸費、大会費、旅費等として、四一八万四七三三円を支出し、八九五万七一六二円を昭和五六年に繰り越したことが認められる。」

この事実からすると各県税政の支出のうちの大部分が政治資金として使われていることが明らかである。

4 従って以上の認定事実をもってしただけでも各県税政が政治活動を行う政治団体であることは明らかである。

5 ところで上告人が本件決議に基づく特別会費五千円を納付していないことを理由として被上告人が昭和五四年、五六年、五八年、六〇年、六二年、平成元年、平成三年の各役員選挙において上告人を選挙人名簿に登載しなかったことは当事者間に争いがないのであるから、右金員の納付を強制したことは確定した事実である。

6 従って本件は原判決認定の事実からいって次のように言うことができる。

「本件決議は被上告人である税理士会が、その会員が各県税政に対する寄付に反対の意思を明示していたのにかかわらずこれに対して、政党や政治家後援会に寄付、政治活動を行う政治団体たる各県税政への寄付を強制したものである。」

とすれば本件決議に応じることは明白に特定の政治家を応援することにつながるものであって憲法第一九条、民法第九〇条に反し許されないものといわなければならない。

7 さらに、政治資金規正法は同法上の政治資金の寄付は完全に個人の自発的な意思に基づかなければならないことを当然の前提としているものである。

このことは同法第二条第一項からも明らかである。即ち同法第二条一項は次のように規定している。

第二条 この法律は、政治資金が民主政治の健全な発達を希求して拠出される国民の浄財であることにかんがみ、その収支の状況を明らかにすることを旨とし、これに対する判断は国民にゆだねいやしくも政治資金の拠出に関する国民の自発的意思を抑制することのないように、適切に運用されなければならない。

また同法第二二条第一項では「何人とも本人の名義以外の名義又は匿名で、政治活動に関する寄付をしてはならない」とされ、さらにここに同法第二二条の七第一項では「何人も、政治活動に関する寄付のあっせんをする場合において、相手方に対し業務、雇用、その他の関係組織の影響力を利用して威圧するなど不当にその意思を拘束するような方法で、当該あっせんに係る行為をしてはならない」と定めているのである。

これらの各規定の中に流れる根底の思想として、政治資金の寄付はその人の自発的意思に基づくものでなくてはならず、一応外形的にはその人の意思と見られるとしてもしぶしぶながら、又はいやいやながら行う寄付は認められないことを明らかにしているものといわねばならない。

ましてや本件のように本人の明示した意思に反する寄付は全くの論外である。

よって、原判決は、憲法第一九条、政治資金規正法第二条一項、二二条の七第一項、二項、民法第九〇条の解釈を誤ったものであることが明らかであるといわねばならない。

二 税理士法改正への賛否は国民としての思想・良心の問題であること

原判決が、税理士制度という国民的関心事に関する政策上の問題として、本来、国民一人一人の立場において自己の個人的かつ自主的な思想・判断に基づいて決定すべき事柄について、多数決により特別会費を徴収することにより、反対する会員にも協力を強制させたことを適法としたことは、判決に影響を及ぼす憲法第一九条、民法第九〇条の法令の解釈の誤りがあり、かつ最高裁の判例に違反している。

1 原判決は「多数意見が一般的通念に照らし明白に反社会的な内容のものであるとか、多数意見による意思決定に従わざるを得なくなる少数意見者の立場が、社会通念に照らして是認することができないほど過酷であるような場合には右意思決定を、公序良俗に反するとして無効とする余地があり、あるいはまた多数意見による活動の内容、性質と構成員に求められる協力の内容、程度、態様との兼ねあいから構成員の協力義務の範囲に限定を加える必要があると考えられる。」と述べている。

そして本件については右の各場合にはあたらないとした。

2 しかし、本件については税理士制度のあり方という国民の権利に関わる国の政策上の問題であり、国民の関心事でもあったのであるから、税理士会の会員といえども国民の一人としての立場において判断すべき事柄であった。しかも、税理士会内部においてさえ税理士法改正をめぐる考え方もわかれていた状況であった。

したがって、税理士法改正問題については自己の個人的かつ自主的な思想・見解・判断に基づいてこの法案に対する態度を決すべきことであったのであり、そのような問題について多数決によって当時の税理士法改正案に対する賛成への協力を強制させることはできなかったものである。

3 また、当時の税理士法改正をめぐる論議は大型間接税導入とも関連していたため、法改正への賛否はまさに国民の一人としての立場から決定されるべき問題であり、会員の思想・良心の自由に対する配慮がいっそう必要であった。この点に関し、一審判決は次のとおり事実認定し、法的判断を下している。

「1 問題とされている被告の活動の内容・性質

前記したとおり、本件決議は税理士法改正運動資金の緊急性に鑑み税理士法改正運動に要する特別会費とするため、各会員より特別会費として金五〇〇〇円を徴収し、全額を南九各県税政へ配付する、というのである。

ところで、本件決議がなされた前後の、税理士法改正の動きとその内容は前記(第一の三及び四)した通りであり、昭和三九年案についての税理士業界あげての反対運動により同法案の廃案後、日税連が長年の知恵をしぼって民主的手続きにのっとって討議、研究した結果、日税連が機関決定した基本要綱とそれに基づく運動大綱が基本的にうけ入れられる気配は全くなく前記第一の四の7で認定したとおり、日税連山本会長は、昭和五三年一月基本要綱による税理士法の改正は至難困難である、との会長感触六項目を表明している。)、従って、また、税理士業界内部においては、別紙(1)の運動計画大綱を基に、当時進行を開始していた税理士法改正に向けての国税当局と日税連執行部との折衝は国税当局ペースになるのではないかとの批判或は、一般消費税の導入と絡んで、重大な局面の展開をみる恐れがある、として、危惧と反対を表明していた部分もあった。

2 会員に求められる協力の内容・程度・態様

本件決議は一人当たり「五〇〇〇円」という税理士の社会、経済的地位に徹すれば、特に多額である、ということにはならないと思われるが、もしこれへ協力すべきであるとすれば、日税連執行部が当時すすめていた国税当局との税理士法改正の方向に危険を感じて反対していた者にとっては、自らの思想・良心に反することへ金を拠出しなければならない、と言う意味で、憲法上の基本的人権である思想・良心の自由(一九条)に積極的に違反するものといえるし、或いは、内容が明確になっていないため反対のしようもない者にとっても、日税連執行部に税理士法改正の方向に関して白紙委任した者でない以上(白紙委任者は、いかなる場合にも反対しないであろうから、右の「反対しようもない者」に該当しないことは明らかである。)、自らの思想・良心に反することになるかもしれないことへ金を拠出しなければならない、という意味で、右思想・良心の自由に消極的に違反するものというべきである。事は金額の多寡という量の問題ではなく、思想・良心の自由に違反するかどうか、という質の問題なのである。

更に問題なのは、その特別会費の使途が、南九各県税政という政治団体へ寄付されることが明示されていたことである。南九各県税政の性格、組織上の位置については前記(第二の二)したとおりであり、税政連の組織は一体をなして、組織的、積極的に政治活動をすることを目的とし、しかも、日税政の前身たる税政連の発足(昭和三八年)以来、国会議員の選挙の際に、特定政党の特定候補者を推薦候補として決定し、その当選を目指した積極的な政治活動を展開し、そのために資金を費消してきたことも前記したとおりであり、なお、本件決議後のことではあるが、前記第一の四の15、20、28に認定した事実も、日税連、日税政両執行部の政治姿勢を知るには象徴的である。然りとすれば、右特定政党の特定推薦候補者を支持しない者にとっては、本件特別会費が、従来の税政連側の組織を通して、右政治活動に使われるであろうことを推測することは当然であり(現に、徴収された本件特別会費の一部が、特定政党、特定政治家の後援会等にパーティ券、後援会費、陣中見舞い等々の名目で渡っていることは、被告も自認(事実指摘欄第六の四の3の(三)参照)するところである。)、従って、右会費徴収を強要されることは、自らの政治的信条、思想・良心に反する行動をとることを強制されることになって、これに応じられないとの態度決定をしたとしても異とするに足りない。」

以上は全く正当な判示である。

4 以上の理は、すでに国労広島地本事件上告審判決(最高裁第三小法廷昭和五〇年一一月二八日)のうち「労働組合が安保反対闘争の実施費用として徴収する臨時組合員の組合員の納付義務」に関する判示において「各人が国民の一人としての立場において自己の個人的かつ自主的な思想、見解、判断などに基づいて決すべきことであるから、それについて組合の多数決をもって組合員を拘束し、その協力を強制することを認めるべきではない」と判示しているとおりである(判例時報七九八号一一頁以下)。

5 しかもすでに第一項で述べたとおり上告人としては、まず政治活動を行う政治団体への寄付であること及びこれまでの経緯からして政治家への資金提供の恐れが強いことを付加すべき理由として反対していたものであり、その反対理由にも十分根拠があったものであるから、なおさら協力義務が肯定される場面ではなかったものである。更に政治家やその後援団体に本件会費が献金されることは税理士法改正のためであれば賄賂性を帯びることを考えれば更になおさらのことであったと言わねばならない。

従って、本件特別会費は多数決による協力義務を肯定すべきでなかったことは全く自明のことであったといわねばならない。この点につき原判決が単に「本件決議の結果として被控訴人に要請されるところは金五〇〇〇円の拠出にとどまるもので、本件決議の後においても、被控訴人が税理士法改正に反対の立場を保持し、その立場に多くの賛成を得るように言論活動を行うことについて、何らかの制約を受けるような状況もないことを考えると、本件決議の結果、被控訴人が社会通念上是認することができないような不利益を被るものでもなく、また右説示に照らし被控訴人が本件決議に従うことに限定を加えるのを相当とすべき特段の事情も認められない。」などとして原告の請求を退けたことは全く違法である。

三 政治資金との関連性の明らかな特別会費は「五、〇〇〇円の拠出のみ」にとどまらない

原判決が一定の政治的活動の費用としての支出目的との個別的関連性が明白に特定されている資金につき「五〇〇〇円の拠出のみにとどまる」として金員の拠出の強制を適法としたことは判決に影響を及ぼす憲法第一九条、民法第九〇条の解釈の誤りがあり、かつ最高裁判所判例に違反している。

1 本件の特別会費五〇〇〇円は税理士法法改正運動資金に用いること、および各県税政に交付するものであることが特定されていた。

2 さらに本件特別会費徴収に先立つ二年前、昭和五一年に決められた特別会費徴収の決議も同じ文言であり、その特別会費は全額日税政にわたり、そこから政治家への献金が行われていたことは当時すでに明らかとなっていた。

3 したがって本件決議に賛成することは、

(イ)特定政治家に渡る資金の提供となるおそれが強いこと

(ロ)もしそうであればそれは法成立をめざしたワイロになること

(ハ)当時法成立に反対していたもの(上告人も含まれる)にとっては反対するものへの資金提供となること

などの問題点を有していたのであった。

従ってこのような者への協力義務はそもそもありえないし、かかる以上金額の多寡とは何の関係もない。

4 すでに最高裁判決も右の理由を認めている。

即ち、国労広島事件の上告審判決(最高裁第三小法廷昭和五〇年一一月二八日)のうち「労働組合が安保反対闘争の実施費用として徴収する臨時組合費と組合員の納入義務」に関する判示において、

「もともとこの種の活動に対する費用負担の限度における協力義務については、これによって強制されるのは一定額の金銭の出損だけであって、問題の政治的活動についてはこれに反対する自由を拘束されるわけではないがたとえそうであるとしても、一定の政治的活動の費用としてその支出目的との個別的関連性が明白に特定されている資金についてその拠出を強制するにも等しいというべきであって、やはり許されないとしなければならない」としている。

即ち、上告人にとっては法案に対する反対の立場と、その法案の成立のために資金を提供するということは絶え難い自己矛盾であり、その自己矛盾は社会的相当性の範囲をはるかに超えるというべきなのである。

5 さらに、本件決議は、単に五〇〇〇円の拠出にとどまるものではなく、上告人を含む会員全員に対する未来永劫にわたる選挙権・被選挙権のはく脱を伴うものであった。

上告人からの選挙権・被選挙権のはく奪について、従来上告人が主張していたように二年ごとに行われる役員選挙のたびに新たな処分が行われたものという理解ではなく、原判決のように特別会費を納付しないことによって自動的に選挙権・被選挙権を失うという理解に立つ限り、本件決議は本件特別会費を納付するか、納付せずに反永久的に選挙権・被選挙権を喪失するか、いずれかの選択を会員に強制したものと言うことができる。なぜなら、前説であれば、五〇〇〇円を納付しなくても選挙権・被選挙権が回復される可能性があるが、あとの説では五〇〇〇円を納付しないかぎりその可能性はないからである。

実際、上告人は、自己の思想・良心の自由を守るため、本件特別会費を納付しないとの選択を行ったのであるが、それによって昭和五四年以降、二年ごとに行われた役員選挙における選挙権・被選挙権を奪われ続けたまま今日に至っている。したがって、上告人としては、本件決議当時だけでなく、その後将来にわたって、選挙権・被選挙権を回復しようとすれば自己の思想・良心の自由を捨て去って五〇〇〇円を納付しなければならないというジレンマに苛まれるのである。

このように本件決議が伴っていた処分は、会員にとって非常に過酷なものであり、上告人に与えた心理的負担は決して五〇〇〇円の多寡で推し量ることはできない。

このような重大な処分、権利制限を伴う本件決議によって上告人が要求された協力の程度は非常に重いといわなければならない。

6 よって、以上の点からも、原判決は憲法第一九条、民法第九〇条の解釈を誤っているものといわねばならない。

四 特定候補の支援になれば軽微でもその強要は違憲・違法

原判決が、「各県税政連が本件特別会費を政治家の後援会に支出した一〇八三万八〇〇〇円に含まれた分もあると疑う余地がある」ことを認め、かつ「その政治家の経済的援助なり、ひいてはその政治家の一般的立場を支援する結果を多少とも生じさせたことは否定できない」と認定しながら本件会費を強制、思想良心の自由の侵害とはならないとしたことは憲法第一九条、民法第九〇条の法令の解釈を誤ったものであり、その誤りは原判決に影響を及ぼし、かつ原判決は理由齟齬の違法がある。

1 特定政治家についてその経済的援助になる行為が思想、良心の自由の問題を生じさせることはいうまでもないことであり、その際、その金額の多寡によって思想、良心の自由の侵害の有無に影響を与えないとするのが条理上当然のことがらである。なぜならば経済的援助についてはたとえ一円であってもその強制が人間の良心即ち自己の人間性の核心部分を否定することになるような場合においてはこれは質の問題であって量の問題に解消することはできないからである。

2 最高裁の判決も右の理由を認めている。即ちすでに前記上告理由三で述べたとおりである。

3 よって、原判決はその認定した事実と結論に理由の齟齬があり、かつ憲法一九条、民法九〇条の解釈を誤っており、さらに最高裁判所判例に違反している。

五 多数決原理の解釈・適用の誤り

原判決は団体の意思決定について多数決原理を採用している場合、多数決原理が制約される場合として①反社会的な内容、①少数意見者の立場が過酷な場合に無効になる余地がありとしさらに③多数意見による活動の内容、性質と構成員に求められる協力の内容、程度、態様等の兼ねあいから構成員の協力義務の範囲に限定を加える必要がある場合もあると考えられる、と判示したが、本件については右①、②に該当しないので協力義務を肯定すべきであるとしたことは多数決原理に関する法令の適用を誤ったもので、判決に影響を及ぼす審理不尽、理由不備および法令解釈の誤りがある。

1 原判決が多数決原理について判示した部分のうち①、②に該当する場合は当然多数決原理が及ばないことが明らかな場合であり、その場合さえも「無効となる余地がある」、即ち有効となる場合がありうるとすることはきわめて問題であるといわねばならない。

2 これを本件にあてはめるならば本件決議は上告人に対し、その意に反する政治団体への寄付を強要され、これを拒否したがために一〇年以上にわたり税理士会の選挙権、被選挙権を奪われるというきわめて異常かつ過酷な状況におかれている。従って本件についても①、②の場合に該当するということがいえるものであり、原判決は判決に影響を及ぼす法令解釈の誤りがある。

3 さらに、原判決は③の類型を一般論としては認めているものの、その点に関してほとんど検討せずに協力義務を肯定したことは違法であるとの評価を免れない。まして、本件は、思想、良心の自由という憲法上の大原則にかかわる大問題であり、このような判示の内容は自ら定立した基準についてその内容の検討を行っていないことに帰するものであるから、原判決の審理不尽、理由不備及び法令解釈の誤りは明らかである。

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